募集終了2021.02.22

失われかけた町並みをもう一度。家づくりから“京都”を建て直す現代の匠たち

「快適なだけじゃない、町並みに溶け込むようなマイホームを建てたい」「町家の良さを残しながら、もっと住みやすい家にしたい」。そんな想いを抱く人々から頼りにされている会社が京都にあります。

京都市内を中心に、住宅の新築や改修、店舗、公共施設などの設計施工を手がける地域密着型の工務店「株式会社中藏(なかくら)」です。京都で培われた伝統的な技をつなぎ、未来に誇れる持続可能な家づくりを継続・発展させるため、設計と現場管理の2職種で新たな人材を求めています。

左官屋の技を取り戻した町家改修が転換点に

拠点オフィスがあるのは、世界遺産の元離宮二条城や、平安京の遺構とされる神泉苑にほど近い御池通沿い。新旧の建物が混在していながらも、控えめな色使いやデザインで統一された落ち着きのある町並みです。
運送業の事務所兼駐車場を2011年に改修した中藏のオフィス自体も、ファサードに格子や庇といった京町家のエッセンスを取り入れたシックな造りで、うっかりすると通り過ぎそうなほど周囲に溶け込んでいます。

「昨年(2020年)、おかげさまで創業110周年を迎えることができました。ただ、工務店の歴史は36年で、その前はずっと左官業専門だったんですよ」

そう切り出したは、次期社長に内定している常務取締役の古川亮太郎(ふるかわりょうたろう)さん。中藏が建てた家で育った縁もあり、17年前に中途採用で同社の一員に。設計士でありながら「左官の番頭として、素材を表現してみたい」と上司に直訴したこともあるくらい、“元左官屋”である自社に誇りを持っています。

左官は建物の壁や床を漆喰や土などで塗り仕上げる専門職で、その昔「右官」と呼ばれた大工と対になり、家づくりを担った重要な存在です。
特に左官は、水回りの修繕などで頻繁に客先に出入りしていたことから「お出入りさん」と親しまれ、時には冠婚葬祭の手伝いを任されるほど、地域の人々と強い信頼関係を結んでいたそうです。

しかし、昭和の高度経済成長期以降、建物の内装はクロス仕上げが主流となり、左官の出番そのものが急激に減少しました。また同時期に、他の業種の仕事も相談がくるようになり、工務店への業務転換をすることになりました。

「工務店に変わったあとも左官の仕事は続けていましたが、新しく入る職人さんもおらず、一時は左官という職業そのものが消えてなくなりそうな事態に陥りました」

そこで中藏は、京都に数多く残っていた町家を教材に、左官の技を学び直そうと決意。得意先のつてを頼りに、町家の大規模改修を手がけるようになりました。「今思えば、それが中藏の転機だったのかな」と、古川さんは振り返ります。

壊れゆく町並み、放っておけない!

町家改修の実績が積み上がり、伝統建築の「技をつなぐ」ことで一定の成果を挙げた一方、今度は「町家の減少」という新たな問題に直面。2000年頃を境に建物の老朽化や住人の高齢化などで維持が困難になり、土地ごと手放してしまうケースが増えたのです。

「京都の町並みにそぐわない異質な建物に建て替えられていくのを見て、“京都が壊れていく”と感じました。この先100年かかってもいい、もう一度、京都のあるべき姿を取り戻したいという思いで景観に配慮した家づくりへ舵を切りました」

以来、中藏では新築物件において「町並みにしっくりとなじむデザイン」を提案するようになりました。耐震性や高気密・高断熱といった基本性能の向上や、施主の細かな要望に応えることを前提とした、ある種の“駆け引き”です。

パンフレットで紹介されている近年の新築事例を見ると、格子や塗り壁を取り入れた外構デザインに“中藏らしさ”がくっきりと現れています。それでいて、住宅内部はまさに十人十色の多彩ぶり。
「小さな二世帯住宅」「エアコン一台で快適に過ごせる家」「あおぞらの家」など、統一感のある外観とのギャップに驚かされる事例も少なくありません。けれど、実は住宅内部にも町家の知恵が活かされていると、古川さんは明かします。

「動線と通風を兼ねた『通り庭』や、自然の光と風、癒しをもたらす『坪庭』、防火機能をもつ吹き抜けの『火袋』など、町家には自然の摂理を活かしたさまざまな工夫が凝らされています。そうした知恵を取り入れることで、環境への負荷を抑えた持続可能な家に近づけることができます」

設計にあたっては、現代のツールも積極的に活用しているという古川さん。建築用のシミュレーションソフトを使い、立地環境や季節によって光の入り方がどのように変わるかを3D画像で可視化。「完成像がリアルにわかる」と依頼主からも喜びの声が聞かれます。先人の知恵を現代の技術で補う。それも中藏の家づくりの大きな特徴と言えるでしょう。

地域の声に応える“お出入りさん”に

京都市によって景観に関するガイドラインが定められ、市民の意識も高まってきたのか、最近は「町並みに溶け込むような住まい」を要望されるケースが増えているそうです。
古川さんは「注文住宅なので年間100棟も200棟も建てられませんが、年間10棟程度、しっかりつくることを念頭にこれからも頑張っていきたい」と意気込みを語ります。そしてゆくゆくは「“お出入りさん”のような立ち位置に戻りたい」とも……。

「私たちは家というハードをつくる仕事をしていますが、住空間における暮らし方や楽しみ方を提案する役割も担っています。そう考えると、人のため地域のために、まだまだやれることがあるんじゃないかと。
一軒一軒のお困り事を集約して、その地域に足りないものを提供する。例えば、地元野菜の宅配をやるとか、介護施設の紹介窓口を設けるとか、工務店の枠を超えた事業展開があってもいいと思います」

女性や若手の活躍をバックアップ

暮らしやすい家から暮らしやすいまちへ、中藏は家づくりを通して地域の未来を描き出そうとしています。そこへ到達するための“足場づくり”も忘れていません。建築業界の人手不足が深刻化するなか、女性も重要な戦力と位置づけ、積極的に採用しています。

「今回募集する設計部と工務部には、それぞれ2名の女性社員がいます。女性はやはり細かいところによく気が付きますし、コミュニケーション能力も総じて高いですよね。男性並みの力仕事はできなくても、それを補ってなお余りある能力があると思います」

そうは言っても、男社会・縦社会のイメージが未だに強く持たれている業界です。女性や新人に対して風当たりがきついということはないのでしょうか。
古川さんの答えは「大丈夫、今の職人さんはめちゃくちゃ優しいですから」。職人さんの意識が変わり、昔とは比較にならないほどコミュニケーションが取りやすくなっているそうです。

「会社としても今後さらに、女性や若手のサポート体制を充実させたい」と古川さん。先輩社員に付いてのトレーニング期間や定期的な勉強会といった既存の取り組みに加え、現場管理のICT化や人事評価制度を導入し、効率的かつ意欲的に働ける環境づくりを進めていく考えです。

現場のプロに相談できる、工務店の安心感

今回の募集職種について先輩社員のお話もうかがいました。
設計部の桜井未紗都(さくらいみさと)さんは、2015年に中途採用で中藏へ。東京の建築事務所で大型物件の設計に携わるなか、「もっとお客さんを身近に感じる仕事がしたい」という欲求と、建築の道を志した頃からの「いつかは京都で働きたい」という願望が重なり合い、転職&移住を果たしました。

「もともと京都の町家や社寺が好きだったので、町家改修を行っている工務店に絞り込んでいました。探している時、以前改修現場の見学をさせてもらった中藏の名前を見つけて、ココだ!と思いましたね」

入社後、希望した新築住宅や町家改修の設計を任されるも、未経験の領域は「わからないことだらけ」。どんな材料を使えばよいのか、家具の寸法はどのくらいがよいのか、住宅設計特有の難しさを痛感したと言います。

「いくら考えても答えが出ない時は、工務の方に相談していました。いつも的確なアドバイスをいただけて、現場のプロが近くにいる工務店でよかったと思いました」

入社6年目を迎えた現在は、おもに新築住宅の設計を担当。結婚・出産を経て、家事動線やキッチン周りなど「主婦目線の設計」で強みを発揮しています。そんな桜井さんが普段心がけているのは、「対話を尽くすこと」です。

「お客様のご要望はすべて叶えて差し上げたいのですが、コスト面や技術的な問題で難しい部分も出てきます。そうした時にはその理由や解決策についてお客様とじっくり話し合い、最終的に“これでよかった”と喜んでいただける住まいになるよう心がけています」

新たに迎える設計士に対しては、「お客様や現場の方々とのコミュニケーションを大事にできる人」を前提に、「今までやったことがない建築分野にも意欲的に取り組んでもらいたい」と期待を寄せます。
住宅、店舗、公共施設など多様な物件を手がける会社である以上、「これしかやりません」は通用しないからです。しかし裏を返せば、さまざまな分野で経験を積みたい人にとっては最良の職場と言えるでしょう。

桜井さん自身はこれまで蓄えた知識・経験を活かして、今後どのような仕事に携わりたいと考えているのでしょうか。

「町家をはじめ京都の古い建物を守り、活かしていく仕事に関わっていきたいですね。費用の問題などで町家の改修を諦めかけている方々にアプローチして解決策を導き出したり、新築でも町並みに溶け込むようなデザインを提案したり、設計士の自分にできることを追求していきたいです」

先輩と職人さんに支えられ、今がある

現場管理の先輩社員・岡野早恵さんは、成長過程にある入社3年目の若手。広島県内の大学を卒業後、希望通り「町家を手がけている京都の工務店」への就職を果たしました。

「子どもの頃からインテリアや建築が好きで、学生時代は趣味と勉強を兼ねて京都によく来ていました。そうしているうちに、京都で働きたい!伝統建築の現場に立ちたい!という思いが高まり、中藏が選択肢に入りました」

1年目から早速、町家の改修工事に携わることができましたが、「大学の座学で学んだ内容と現実とのギャップ」に衝撃を受けたそう。教科書に載っている知識だけでは、町家の改修はできないという事実を思い知らされたのです。

「古い町家は必ずどこかが歪んでいて、その程度もまちまちです。駆体はそのままに歪みを修正するには、“収まり”と言って、全体のバランスを見ながら壁の厚みを調整したりする難しい作業を要するのですが、そんな実態をまったく知らなくて……何事も経験だなと感じました」

現在は、現場監督として独り立ちするため、先輩社員のサポートを受けながら新築工事現場を指揮しています。その物件の施主はなんと、先ほど登場した設計士の桜井さん。彼女は「たくさん経験して、勉強してね」という温かな言葉を添えて、マイホームの設計図を岡野さんに託しました。

「本当に、ありがたい気持ちでいっぱいです。桜井さんがお施主さんで安心な面もありますが、いつも通り“お施主さんのために”という気持ちを忘れず、自信をもってお渡しできるおうちに仕上げていきたいと思います!」

岡野さんが取り組んでいる現場管理の仕事は、決められたスケジュール通りに工事を進めるとともに、品質や安全を確保し、予算内に工事費用が収まるように管理する、建設現場における司令塔です。その役割を果たす上で、特に心がけていることを聞きました。

「職人さんたちとのコミュニケーションを密にすることが重要だと思います。以前、私の伝達不足で、工事を遅らせてしまったことがあって。管理する側がそんなことではいけないと猛省し、それ以来、ちゃんと情報が行き渡るように心がけています」

だからこそ、岡野さんはこれから中藏で現場管理の仕事に就こうとする人は「コミュニケーションを取るのが好きであって欲しい」と望んでいます。そしてもう一つ、「お施主さんのために頑張れる人」という希望も。
中藏は営業担当を置いていない分、現場管理者が施主と接する機会が多く、建設中に新たな要望を直接受けることも珍しくありません。その時に可能な限り「YES」と回答する原動力となるのは、「お施主さんのためなら」という熱意なのです。

固定観念にとらわれず、いつも新たな気持ちで

そこにさらなる要望を付け加えたのは、岡野さんのサポート役を務める先輩社員の藤井崇宙(ふじいたかひろ)さん。それは、これから経験を重ねていく岡野さんに対するアドバイスでもあります。

「どんな仕事でも、経験値が上がるにつれて固定観念にとらわれやすくなりますよね。今までこうだったから、今回もこうしようとか、思い込みで判断しがちに。でも家づくりの現場でそれをやってしまうと、お施主さんの希望が通らなくなる場合があります。現場が変わるたび、リセットするくらいの意識を持ちつづけてほしいですね」

ちなみに、藤井さんが女性の後輩を指導するのは今回が初めて。「正直はじめは戸惑いがあった」そうですが、普段の働きぶりを見ていて、女性のポテンシャルの高さを実感したと言います。

「彼女の明るいキャラクターゆえなのか、職人さんがいつも以上に優しいんです。僕の時と違うじゃないですか!ってツッコミを入れたほど(笑)。ムードメーカー的な役割を果たす一方で、高所作業を怖がる様子もなく僕以上に度胸があるので、現場管理の仕事に性別は関係ないと思うようになりました」

そんな先輩の心強い言葉を受けて、岡野さんは今後の抱負を語ってくれました。

「将来的には設計士として家づくりに関わっていけたらと、資格試験に向けて猛勉強中です。直近の目標は試験に合格することですが、それはあくまで通過点。誰よりも現場に精通した設計士になれるよう、現場管理のほうでもレベルアップしていきたいです」

伝統建築を支える左官業からはじまり、その技をつなぐため、京都でも数少ない町家改修を手がける工務店へと発展した中藏。旧きよき町並みの再生を目指して幅広い物件を手がける今、社員のみなさんはそれぞれの持ち場でいきいきと働いています。その様子を見て、従来の工務店のイメージが変わった方も多いのではないでしょうか。
「京都で建築やってます」。胸を張ってそう言える未来の自分を、中藏で築き上げていきませんか? 

※本記事はBeyond Career事業にて受注・掲載した求人記事となります。Beyond Careerについてはこちら

執筆:ミカミ ユカリ
撮影:稲本 真也

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